三菱UFJ信託銀行が発行する、国内に現物保管された金を裏付けとする金ETF「純金上場信託(現物保管型)愛称:金の果実」について解説します。
ファンド概要
証券コード | 1540 |
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ファンド名 | 純金上場投信(現物国内保管型)金の果実 |
運用会社 | 三菱UFJ信託銀行 |
上場日 | 2010年6月30日 |
対象指数 | 大阪取引所先物価格を元に算定した価額 |
投資対象 | 金地金 |
投資対象国 | 日本国内に保管の金 |
信託報酬 | 0.44% |
配当利回り | 原則なし |
決算日 | 毎年1月20日(半期計算は毎年7月20日) |
NISA(成長投資枠) | 対象 |
ファンド情報 | 公式サイト |
金に投資する理由
現在の資産の主流は「現金・株式・債券」ですが、これらは発行体の信用を価値の裏付けとする「ペーパー資産」と呼ばれるものであり、その紙幣や株券自体には価値がありません。
一方、金は物質そのものに価値がある「現物資産」です。
かつては金本位制といって、中央銀行(日本は日本銀行)が発行する貨幣は一定量の金と等価関係にあり、いつでも相互交換できることを保証するという通貨制度でした。
つまり、金とは現金の価値の裏付けとなる「お金そのもの」なのです。
現金や株はペーパー資産
金本位制が終わり、現代は中央銀行が原則として無限に現金を刷れる「管理通貨制度」が採用されており、現金・株式・債券のような金融資産を「ペーパー資産」と言います。
「現金」は原則として中央銀行が無限に刷ることができます。
流通量が増えるほど希少性は薄れ、現金の価値は下がり続けます。また発行体である国家の信用が毀損した場合も価値が下がります。たとえば、戦争による敗戦、債務不履行、革命などによって、国家が衰退または消滅した場合も現金の価値が失われます。
「株式」も同様です。
株式は企業が無限に発行することができます。株の発行量を増やすことで1株あたりの価値は下がります。業績を伸ばすことで企業価値が高まり、株価(株の価値)を上げることも可能ですが、成長が鈍化すると株式の価値は下がり、企業が倒産すると株式の価値は消滅します。
「債券」も株式と似た性質を持っています。
発行体は国や地方自治体や民間企業です。株式よりは安全性が高いですが、こちらも発行体である国が債務不履行(デフォルト)になったり、企業が倒産した場合は無価値になります。
金は現物資産
一方、「金」はその物質自体に価値がある「現物資産」になります。
鉱物である金の採掘量には限りがあり、その流通量は有限なので、現金・株式・債券などの「ペーパー資産」のように無限に生み出すことはできません。無限に刷ることができ1単位あたりの価値が下がり続ける現金とは反対の性質を有しています。
金は古来より財産として認められてきた歴史があります。その歴史は、新たに生まれては栄枯盛衰と共に消えていく「現金通貨」や「株式」とは比べ物になりません。金の価値は宝飾品としてだけなく、各国の中央銀行の準備通貨としても用いられおり、その信用と価値を保ち続けています。
金は人類の長い歴史の中で「無価値」になったことは一度もないという資産としての絶対的な信用があります。
金の歴史や本質を知ることで、現金・株式・債券などのペーパー資産以外に「金」もポートフォリオの一部に加えるべき理由が見えてきます。
金に関する格言
1912年、アメリカの多国籍金融機関 JPモルガン・チェースの創始者であるジョン・モルガンは、米国議会の証言で「銀行の基本は信用(クレジット)ですね?」という問いに対して、
「信用は銀行の証拠にはなりますが、お金そのものではありません」「お金とは金であり、その他のすべては信用です」と答えています。
1973年、ヘンリー・キッシンジャーは「食料をコントロールする者は人々を支配する。エネルギーを支配する者は大陸全体を支配する。お金を支配する者は世界を支配できる」と言ったと言われています。この発言は、金ドル本位制が崩壊したニクソンショック(1971)や ペトロダラー体制(1974)の時期です。
「食料・エネルギー・お金(ゴールド)」3つの重要性を説いています。
GPIFも金を投資対象に検討
最近では、日本の年金を運用するGPIFもポートフォリオに金を加えるか検討を始めていると言われており、金(ゴールド)の重要性が日本や世界中で見直されています。
他の金ETFとの比較
米国の代表的な金ETF(GLD・GLDM)と比較してみます。
【1540】 | 【GLD】 | 【GLDM】 | |
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上場 | 日本(東証) | 米国(NYSE) | 米国(NYSE) |
運用会社 | 三菱UFJ信託 | ステート・ストリート | ステート・ストリート |
通貨 | 円建 | 米ドル建 | 米ドル建 |
経費率 | 0.44% | 0.40% | 0.10% |
連動対象 | 大阪証券取引所先物価格 | ドル建金価格 | ドル建金価格 |
金の保管国 | 日本 | 英国 | 英国 |
金の保管場所 | 三菱UFJ信託銀行 国内金庫 | HSBCバンクPlc ロンドン金庫 | ICBCスタンダードバンクPlc ロンドン金庫 |
現物転換請求 | ◯ | ✕ | ✕ |
ファンド情報 | 公式HP | 公式HP | 公式HP |
経費率を重視するなら(GLDM)の方が良いかもしれません。ただし米国の金ETFはドル建てで売買する必要があることや、裏付けとなる金の保管場所が海外なので、有事の際に現物の金を確保できるかは不安が残ります。
金の「国内保管」「現物転換」が純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)の最大の強みと言えるでしょう。
国内保管の安心感
純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)の価値の裏付けとなる現物の金(ゴールド)は、日本国内の倉庫に保管されています。
これを聞いて当然と思う方も多いかもしれませんが、実は日本国内に上場する金ETFで、投資対象である現物の金が国内に保管されているETFは、純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)のみです。(2023年10月31日時点)
書面上、日本は金塊をそれなりに保有していますが、その現物のほとんどは日本国内にありません。日本の金保有量は約845トン(2024年2月時点)ですが、その現物の大半はアメリカに保管されています。
最高値でも売らない日銀の金、ニューヨークに眠る
日銀が保有する730トンの金はどこにあるのか――。金に携わる業界関係者の間でこんな話題がたびたび取り沙汰されてきた。日銀に直接尋ねてみると「大半は米ニューヨーク連邦準備銀行にある」とあっさり認めた。長らく非公表だった方針を変えたのだという。
日銀以外の中央銀行も保有する金をニューヨーク連銀に預けている。
引用元:日本経済新聞(2020.8.6)
ひそかに金を買い増そうとした日本、察知したアメリカは動いた
いま政府・日銀の保有する金は、米ニューヨーク連邦準備銀行や東京の日銀本店の地下金庫にある。公開はされておらず、日銀職員でさえも「目撃」した人は少ないという。(文中敬称略)(梶原みずほ)
引用元:朝日新聞GLOBE+(2022.3.18)
日本とアメリカはその信用関係の元、裏付けである金を米国に預けています。
しかし、国際情勢や金融システムが不安定になった時、国内に現物がない金は、本当に信用の裏付けとなるのでしょうか。万が一、米国に保管されている金を取り戻すことが事実上不可能になった場合、金を裏付けとしたETFなどの金融商品はただの紙になる可能性があります。
純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)の裏付けとなる金は日本国内に保管されているので、日本国民にとって、海外に保管されている金を裏付けとする金ETFよりも、安全性が高いETFであるといえます。
現物金に転換可能
純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)は、ETFの受益権口数と引き換えに現物の金へ転換(交換)することが可能です。
小口転換は1kg地金を1kg以上5kgまで1kg単位で交換できます。
つまり、最低でも金1kgの時価相当額のETFを口数として所有している必要があります。
最新の金価格を元にした現物転換に必要なETFの受益口数に関しては下記をご参照ください。
転換(交換)の手続き:三菱UFJ信託銀行
国内に上場する金ETFの中で、日本国内で現物の金に転換(交換)できるのは、純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)のみです。(2023年10月31日時点)
最低1kgからなので手軽とは言い難いですが、いざという時に現物の金と交換可能というのは、金投資をする上で安心材料の1つとなるでしょう。
年50万の特別控除 対象外
現物の金地金を売買した場合、譲渡所得に対して年間50万円までの特別控除が受けられます。
しかし、金ETFは株式と同じ扱いなので、通常の株やETFの売買益と同様の税ルールが適用されてしまうので、年間50万円までの特別控除を受けることができません。
通常、株式やETFの売買益に該当する「譲渡所得」の税率は「申告分離課税」を適用することで一律 20.315%(所得税15.315% 住民税5%)になります。
一方、現物の金地金を売買した場合の利益は、原則「譲渡所得」として給与所得など他の所得と合算した「総合課税」となります。その代わり「現物の金地金の売買で得た譲渡益」は「それ以外の総合課税の譲渡益」の合計額に対して50万円の特別控除が受けられます。
金以外の総合課税の譲渡益がない方であれば、年50万円まではNISA口座でなくても非課税で売却益を得ることができるので、将来年50万円以内でコツコツと利益確定していくと、NISAでなくても税金が課税されないという優遇制度の恩恵を受けることができますが、ETFの場合はこれらの優遇が対象外になります。
ただし、総合課税の税率は最大55%(所得税45% 住民税10%)なので、株式を総合課税で申告していたり、その他の譲渡所得が多い方にとっては、分離課税(一律20.315%)のETFの方が良い場合もあります。
金地金の譲渡益に係る税金の詳細は下記の国税庁HPまたは税務署・税理士等にご確認ください。
No.3161 金地金等の譲渡による所得 | 国税庁
まとめ
純金上場投信(現物国内保管型)金の果実(1540)は「日本国内に保管された金」を価値の裏付けとする国内唯一の金ETFです。(2023年10月31日時点)
金の現物は手数料や保管料の高さ、管理の難しさなどがありますが、ETFであれば手軽な金額から金に投資することができます。このETFは「国内保管」の金が投資対象ということも安心材料です。
「管理通貨制度」の現代において「金」は宝飾品など嗜好品のイメージが強いかもしれません。しかし、歴史をさかのぼると「金」は現金や株では永遠に追い越せない絶対的な価値と信用があることに気づきます。
現在の世界の基軸通貨は「米ドル」であり、各国の中央銀行は外貨準備として米ドル(米国債)を保有していますが、その一方で金の保有割合も増やしています。
金融資産(現金・株式・債券)、人的資本(スキル・知識・ノウハウ)、不動産(地政学・災害・受給バランス)などは、時代の流れや外部環境の変化により、一瞬で価値が下がったり、無価値になるリスクがあります。金融資産、人的資本、不動産などの資産価値は、人類の長い歴史の中で俯瞰して見ると「非常に脆い資産」です。
しかし、金は人類の長い歴史の中で「無価値」になったことは一度もない 数少ない資産です。
無限に増殖を続けて価値が希薄し続ける現金を、成長する株式に変えて資本を増やすことは、資本主義のビッグサイクルにおける成長期においては非常に有効な手段です。
しかし、経済において、短期では景気の循環(好景気と不景気)があるように、長期では世界秩序の変化(産業と覇権通貨)も起こり得ます。今はその転換期までの距離が長い場所にいるのか、短い場所にいるのかは意識しておく必要があるでしょう。
投資は「長期・分散・低コスト」が重要と言われるように、長期・分散という観点からも現金・株式・債券だけなく、金もポートフォリオの一部に加えることを検討してみてはいかがでしょうか。