投資をしている方であれば、経済ニュースや株式、為替相場などを普段からよく見ていると思います。
しかし、メディアに流れるニュースの内容をそのまま受け取るのは良くありません。
この記事では、ロンドン・ロスチャイルド家の祖であるネイサン・ロスチャイルド(1777-1836)が、1815年に仕掛けた「ネイサンの逆売り」の事例をもとに、ニュースや情報を俯瞰して見る心構えについて書きたいと思います。
この「ネイサンの逆売り」の事例や、ロスチャイルド家の歴史は、投資や経済を理解するためのバックグラウンド知識として非常に重要なので、ぜひ参考にしてみてください。
ネイサン・ロスチャイルド
「ネイサンの逆売り」について触れる前に、ネイサン・ロスチャイルドについて簡単に解説します。
ロスチャイルド家の三男に生まれる
ネイサン・ロスチャイルドは、欧州で一大財閥を築いたマイアー・アムシェル・ロスチャイルドの三男として生まれました。
父親はドイツのフランクフルトで古銭商として事業を開始し、貴族の御用商人として両替商を行いながら、やがて銀行家として成り上がりました。
ロスチャイルドには、ネイサンを含む5人の息子がおり、彼らをフランクフルト、ウィーン、ロンドン、ナポリ、パリの5ヵ国に配置しました。
5人の息子たちは各国に散らばったが、まだ電話やインターネットがなかった時代から、伝書鳩や高速船などを駆使して一族独自の情報伝達網を形成し、各国の政治や経済の情報などをやり取りしていました。
彼らの情報伝達網は、国の情報能力を超えていたとも言われています。
マンチェスターにて繊維業で成功
三男のネイサン・ロスチャイルドはイギリスのマンチェスターに行くことになります。
ネイサンは、マンチェスターで繊維業を始め、ドイツなどの大陸に向けて輸出していました。
ネイサンは利益率を向上させるため、商品を仕入れて売るだけでなく、紡績や捺染業も行うことで経費を削減し、高い利益率を実現することで莫大な利益を得た。
ロンドンに移住し金融業に進出
繊維業で成功をおさめたネイサンはロンドンに移住します。
1811年にロンドンで「N・M・ロスチャイルド&サンズ」を起業し「銀行業」に進出します。
ネイサンは為替手形貿易や国債市場にも参入し、国際金融資本家としての道を歩み始めます。
ネイサンの逆売り
さて、ネイサン・ロスチャイルドがイギリスで銀行家になるまでの経緯がわかったところで、いよいよ本題の「ネイサンの逆売り」に触れていきます。
ワーテルローの戦い
1815年、現在のベルギーに位置するワーテルローという地域で、イギリスやオランダを含む連合軍と、ナポレオンが率いるフランス軍との間で戦闘になります(ナポレオン戦争)
欧州中の投資家は、この戦争の勝敗が気になって仕方ありませんでした。
もし、ナポレオン率いるフランスが勝利した場合、投資しているイギリス国債が暴落するからです。
逆にイギリスが勝利した場合は、イギリス国債が高騰します。
なので投資家は「どっちが勝つのか」「どっちが負けるのか」を早く知りたかったのです。
当時はテレビやインターネットなどありませんから、一般の人が戦況をリアルタイムで素早く知ることは難しかった。
一方、ロスチャイルド家の情報伝達網の優秀さは有名だったので、投資家たちはネイサンの動向にも注目していました。
売りを仕掛けるネイサン
ネイサンは、ロスチャイルド家の情報伝達網を駆使してイギリスが勝利するという情報を事前に掴みます。
しかしネイサンは、勝利するイギリスの国債を「買う」のではなく「売り」を入れます。
優れた情報伝達網を持つことで知られるネイサンが、イギリス国債を「売り」に出すのを見て「ネイサンがイギリス国債を売るということは、イギリスが負けるという情報を掴んだんだ」という思惑から、他の投資家たちも一斉にイギリス国債を売りはじめ、イギリスの債券価格は暴落しました。
ここでネイサンは一転し、暴落して捨て値になったイギリス国債の「買い」に転じます。
そして「フランス軍が敗れ、イギリス連合軍が勝利」という情報が大衆に伝わると、イギリス国債に「買い」が集中し債券価格は急上昇します。
これにより底値で買い集めていたネイサンの資産は2,000倍にまで膨らみ、巨万の富を得ました。
一方、その他の多くの投資家は破産に追い込まれ、イギリス国債の売買を通じて、欧州中の投資家の資金が、ネイサン・ロスチャイルドの手に渡ったというわけです。
刺激的な情報に振り回されない
投資歴が長ければ、このようなニュースや憶測で相場が上下する機会に何度も遭遇すると思います。
ミーム株や暗号資産のように本質的な価値のない物や、実力以上の値が付いている株は、その価格を構成する多くが投機マネーであり、カジノで遊んでるような状態なので早々に撤退するのが懸命です。
しかし、騒がれている内容が投資先の将来的な業績や成長に影響がないのであれば、短期で下落することはあっても、長期的には問題ない場合が多いです。
投資の利益の取り方は人により異なるので、一概に結論付けようとすると「摩擦」が生まれてしまいがちですが「ネイサンの逆売り」の事例は、相場が恐怖に包まれた時に、ふと思い出して欲しいと思います。
人々の恐怖と強欲さを図る指標
最後に投資家心理の恐怖と強欲の度合いを図る上で参考となる指数を紹介します。
Fear & Greed Index
「Fear & Greed Index」は、アメリカのCNNが提供する投資家心理を表す指標です。
Fearは恐怖、Greedは強欲を意味し、直訳すると「恐怖と強欲の指数」です。0から100までの値をカウンターでビジュアル化して見やすく表示してくれています。
指数が0に近づくほど投資家心理が恐怖の状態にあることを示し、株価が必要以上に下落しています。
逆に100に近づくほど、投資家心理は強欲になり、株価は割高な状態で上昇余力が少ない状態となります。
上昇余力がなくなる =(これ以上買う人がいなくなる)と相場は崩れます。
フェーズ | 値 | 株価 |
---|---|---|
Extreme Fear (極度の恐怖) | 0〜25 | 超割安 |
Fear (恐怖) | 25〜45 | 割安 |
Neutral (中立) | 45〜55 | 妥当 |
Greed (強欲) | 55〜75 | 割高 |
Extreme Greed (極度の強欲) | 75〜100 | 超割高 |
個別株は恐怖指数に関係ない動きをすることもあるので一概には言えませんが、S&P500やTOPIXのような「インデックス」と呼ばれる市場平均に連動するタイプの投資商品は、この指数に連動する場合が多いです。
つまり、”Extreme Fear” や “Fear” で投資家心理が恐怖に包まれている時に市場平均のインデックスを買い集めて、”Greed“や”Extreme Greed” で売却をすれば、利益を残せる確率が高いです。
これは「ネイサンの逆売り」の事例を知った後であれば、よりイメージしやすいかと思います。
ドルコスト平均法によるインデックス積立投資は、金融知識が疎い人でも利益を出せる確率が高い手法として定着した感じがあります。
一方で、含み益は増えても確定した利益を得られないという不満を抱えている人も多い印象です。
(長期的に上昇する確率は高いとしても、切り崩す時に含み益の状態が続くとは限らない)
もし、そういった不満を抱えているなら、つみたて投資はマイルールに則って継続しつつ、”Extreme Fear” で市場が恐怖に包まれた時に、勉強代として1口が低価格なインデックス連動のETFなどに余剰資金の範囲内で投資してみるのもありだと思います。
ウォーレン・バフェットの格言
著名投資家であるウォーレン・バフェット氏の有名な言葉に次のようなものがあります。
Be Fearful when others are greedy, and greedy when others are fearful.
(民衆が貪欲なときは恐れ、民衆が恐れているときは貪欲になりなさい)
「株は安く買って高く売りなさい」という言葉は、耳にタコが出来るくらい聞いたことがあると思います。
理解はしていても、株価が連日上がり、市場が総楽観の時は買いたくなります。逆に株価が底なしで下落し、その下落に説得力を与えるニュースが連日報道され、市場が総悲観になると売りたくなります。
民衆が恐れる暴落相場は偶発的に、時に人為的に引き起こされます。
その投資対象が割安なのか割高なのか。その価値は妥当なのか。今の市場をパニックにさせている要因はその投資対象が将来にわたってダメージを受ける内容なのか。
こういった視点を持ち合わせながら、相場の過熱感や悲壮感、買いや売りを煽る情報に翻弄されず、冷静に相場に向き合っていくことが大事です。
「ネイサンの逆売り」はそういった心構えを持つ上で非常に良い参考事例だと思います。