新NISAを含む金融所得にも社会保険料の負担が必要になるかも【金融課税】

2024年4月25日、株式配当などの金融所得を、保険料や介護保険料の算定対象にするかの検討を開始するという報道がなされたので、これについて考察したいと思います。

当該記事はこちら

厚労省、保険料に金融所得の反映検討 国保など対象

厚生労働省は所得に応じて集める医療や介護保険料の算定に、株式の配当などの金融所得を反映する仕組みの検討を始めた。25日に自民党の部会で検討案を示した。

自営業者らが入る国民健康保険や75歳以上の後期高齢者医療制度、介護保険について、現状では金融所得に関する確定申告をすれば保険料に反映されるが、申告しなければ保険料が減る仕組みになっており、不公平ではないかとの指摘が根強くあった。

引用元:日本経済新聞(2024.4.25)
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現行の申告不要制度

現行制度では、株式の売却益(譲渡所得)や、配当(配当所得)を確定申告する必要がない「申告不要制度」を選択することができます。

申告不要制度を選択すれば、収める所得税や住民税を算定する際に、他の所得(給与所得・事業所得・雑所得等)と分離して計算され、一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の負担のみで済みます。

株取引をする証券口座が特定口座(源泉徴収あり)」であれば、株の売却益や配当所得の税金を証券会社側で源泉徴収してくれるので、売却益や配当などの金融所得を確定申告する必要がなく、金融所得が次年度の国民健康保険料の算出対象にならないというメリットがありました。

今回メスが入る可能性があるのが、この「保険料」の部分です。

新NISAも課税対象?

2024年に開始された新NISAは、株式の売却益や配当が非課税になるのがメリットです。

ただし、新NISAで非課税になるのは税金部分(所得税と住民税)のみ。

確定申告の有無にかかわらず、金融所得が保険料の算定対象になった場合、NISA口座で得た譲渡所得や配当所得も保険料の算定対象となり、国民健康保険や社会保険料の負担が増える可能性があります。

対象は個人事業主&高齢者

最も影響が大きいのは自営業やフリーランスなどの個人事業主や、金融資産を多く持つ仕事を引退した高齢者でしょう。

昨今は副業や在宅フリーランスなど、法人に属さず個人で収入を得る人も増えています。

法人を介さない個人は所得の把握が困難なので、お金の流れをすべて把握したい国にとって個人事業主は最も規制を強化したい対象でしょう。

高齢者であればリスクの低い配当株や債券などをポートフォリオの主軸にしている人も多い。金融所得は雑所得の年金と違って分離課税であり、国民健康保険の算定にならないので、老後の家計にとっては非常に大きい。

一方、高額な金融資産があり、譲渡所得や配当所得だけで暮らしていける人でも、申告不要制度によって「住民税非課税世帯」となることが可能で、保険料が最低額の負担で済むことや、給付金の支給対象になっていることなどが問題視されていた。

サラリーマン(給与所得者)は対象外?

現状、会社員や法人役員が加入する健康保険は、確定申告の有無にかかわらず、法人からの給与のみで保険料が算定される仕組みになっている。

なので極端な話、サラリーマンや法人役員であれば、株の売却益や配当が何千万〜何億円とあっても、保険料の算定対象にならない。

会社員や法人役員の金融所得も保険料の算定対象になるのかは、今後注視していきたい。

会社員はともかく、法人役員は政治の重要な支持基盤の人も多く含まれているので、それらの金融所得も算定対象にするには、政治側も勇気が必要でしょう。そこは抜け穴として残しながら、政治に影響力のない自営業者や、後ろ盾のない個人資産家をターゲットにする予定かもしれない。

今後「自営業者はマイクロ法人で対策」といった指南が、SNSやYouTubeで活発化することも予想される。騒げば騒ぐほど、それらも規制対象となって自らの首を締めるにもかかわらず。

まとめ

今回の金融課税の話はまだ検討段階なので、確定した内容ではありません。

保険料の算定事務を担う自治体の負担が増える等の課題も多く、2028年までに可否の検討を進める計画のようです。

それにしても、金融所得を保険料の算定対象とすることで、税金の非課税制度であるNISA口座の所得からも徴収が可能になるというのは「その手があったか」という感じだ。

「インボイスの間接税と直接税」や「社会保険料の会社負担」など、大衆を煙に巻く官僚の知恵には毎度感服させられる。

まだ未確定とはいえ、新NISAを皮切りにライフプランを計画していた人や、事業や投資でリスクを取って資産を築いた人にとっては、歓迎する内容ではないと思う方が多いと思います。

しかし、資本主義のビッグサイクルにおける「衰退フェーズ」において、この流れは必然かもしれません。

レイ・ダリオ氏の著書「THE CHANGING WORLD ORDER(変わりゆく世界秩序)」では、国家の寿命には「上昇・ピーク・衰退」の3つのフェーズがあるとしており、ピーク期の末期には「金融バブル」「通貨価値の下落」「国家財政の悪化」「富の格差の拡大」が発生するとされています。

そして、衰退期では「富裕層課税」「格差による国内分断」「ポピュリストの台頭」「戦争」が起きるとされています。

既にネットメディアでは「努力が報われない」「努力してこなかった人が悪い」「富裕層にもっと課税すべき」など、それぞれの富の位置に立ったポジショントークで分断が起きています。

この歪みはますます拡大していくでしょう。

ポピュリストの台頭も近いかもしれません。

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