景気循環とセクターローテーション【日本株版】

本記事では投資手法の1つである『セクターローテーション』について解説します。

目次

セクターローテーションとは

セクターローテーションとは、景気変動と金利政策の局面ごとに『資金が集まりやすい業種』『資金が抜けやすい業種』を把握した上で投資対象を切り替えたり、高騰前の株を先行して仕込むといった投資戦略の1つです。

局面には大きくわけて、①景気拡大期②景気高騰期③景気後退期④景気停滞期の4つに分類されます。

景気と金利はこのローテーションを繰り返し、景気循環に合わせて投資資金もぐるぐると回り続けます。

配当株投資は『長期保有』と『割安で買う』が重要です。

景気循環と金利政策の大きな流れを大局的に把握することで、株価が高騰する前に割安で購入しやすいタイミングや、ポートフォリオをリバランスするタイミングなどについて参考材料の一つにすることができます。

日本はアベノミクス以降、10年以上にわたり金融緩和(利下げ)を継続しましたが、インフレに転じることはなく長期にわたるデフレが続いていました。2022年以降は原材料や資源価格の高騰によるコストプッシュ型の値上げや、他国の利上げに追従できず、金利差による歴史的な円安で輸入価格が高騰し、価格転嫁を理由に30年振りの値上げが行われるようになりました。

しかし、今の日本の値上げは景気高騰による値上げ(インフレ)ではないので、現状をインフレと判断するのは難しく、景気停滞期に物価上昇が進行する『スタグフレーション』とする見方が有力だと思います。

① 景気拡大期

景気拡大期の特徴

景気停滞期に低金利(金融緩和)などの景気刺激策を実施した結果、景気が拡大期に入ります。

低金利なので銀行でお金を借りやすくなり、設備投資などでお金が社会に循環し始めます。お金が循環することで業績が上がり株価も上がり始めます。金融市場も活気づき、低金利などにも後押しされベンチャー投資なども盛んになります。この時期はハイテク企業などグロース銘柄の注目度も高くなります。

一方、景気停滞期に人気のバリュー株(エネルギーや生活必需品のように、成長性は低いが安定した需要がある株)の人気が下がり、そこに集まっていた資金が金融やハイテクなど、上昇余地の高いリスク株に移動します。

景気の上向きが疑念から確信に変わると市場はリスクオンになり、バリュー株からハイリターンを狙える株や商品に資金が移動するので、このタイミングで割安になったバリュー株を仕込んでおくと、次の景気後退時に大きなリターンを得られる可能性が高くなります。

景気拡大期に上がりやすい業種

景気拡大期は低金利による借入需要の増加で銀行株などが活気づきやすい。
金融緩和により投資需要が増えるので証券業や不動産業の人気も高まる。

業界セクター
銀行業
保険業
証券業
その他金融業
不動産業
電気機器
精密機器

② 景気高騰期

景気高騰期の特徴

景気の勢いが加速すると景気高騰期に入ります。

好景気と低金利のおかげで住宅やマンションが購入されるので、建設業や素材などの需要が増えます。また車や高級品などの嗜好品も売れるようになる為、自動車や小売業などのサービス業も盛り上がります。

一方、好景気による金余りで、不動産が投資や節税の対象となり高騰(インフレ)し始めます。

値段の高騰により実需(居住目的)で購入したい人が買えなくなり、投資や転売目的で購入する人により価格が形成されるようになります。本来の価値(実需)を超えた値上がりが続くので、いわゆるバブル状態に入ります。

「株や不動産は上がり続ける」「今が一番安い」「乗り遅れるな」といったムードに包まれてきます。

インフレが過熱し過ぎると国民生活に支障が出てくる為、政府は過熱した景気の抑制に動き出します。具体的には『利上げ』『減税施策の廃止』などを行い、投資や消費行動を抑制する金融引締めを行います。

不動産などの投資や転売目的で価格が形成されていた商品は、下落トレンドに入ると利確で投げ売りされて価格が下がり始めます。新規の購入が減り、在庫がダブついてくることで価格はさらに下がります。販売不調による悪影響があらゆる業界に波及していき、社会全体の消費行動が落ち込むことで過熱したインフレが縮小し、経済は景気後退期に入ります。

景気高騰期に上がりやすい業種

好景気により建設需要などが活発になるので、建設業や素材株などが買われやすい。
また住宅マンションや自動車などの嗜好品も売れやすくなる。
社会全体が好景気であれば小売などのサービス業も業績が伸びやすい。

業界セクター
建設業
ガラス・土石製品
金属製品
繊維製品
パルプ・紙
化学
ゴム製品
輸送用機器
鉄鋼
非鉄金属
機械
倉庫・運輸関連業
卸売業
小売業

③ 景気後退期

景気後退期の特徴

景気後退期はお金の循環が縮小し、企業の業績が悪化し始めます。

建設業や嗜好品などの景気敏感株は売られはじめ、景気に左右されないエネルギー株などが物色されやすくなります。

また、景気拡大期や高騰期には関心が薄くなっていた生活必需品やインフラなどのバリュー株の人気も高まります。これらの銘柄は成長性は低いですが安定した需要があるので、景気後退期に人気となり資金が流れてきます。

景気高騰期で世間が金融株やハイテク株、レバレッジ商品、暗号資産などのリスク資産に夢中になってる時にバリュー株を仕込んでおくと、景気後退期に大きなリターンを得られる可能性が高くなります。

一方、景気後退時は、金融やハイテクなどリスクの高い景気敏感株はリスク回避で資金が抜けて割安になる傾向にあります。景気停滞期を乗り越えれる可能性が高い優良企業の株をリスクを取って仕込んでおくと、景気拡大期に大きなリターンを得られる可能性が高くなります。

景気後退期に上がりやすい業種

業界セクター
鉱業
石油・石炭製品

④ 景気停滞期

景気停滞期の特徴

景気停滞期は企業の業績や株価に関してネガティブな情報が多くなります。
「投資なんて危ない」「貯金が一番」といったムードに包まれます。

景気回復への道筋が不透明な期間が続くので、ディフェンシブ株やキャッシュポジションを増やすなど、守りを重視したいポートフォリオが好まれます。一方、この時期は株や不動産などが割安で売られていることが多いです。

景気停滞時は娯楽や嗜好品などはネガティブになる一方、食料品や医薬品のような生活必需品、電気・ガス・通信のようなインフラ株は、景気停滞時でも安定的な需要があり安心材料として買われやすくなります。

また景気停滞期は『高配当株』も人気になりやすいです。将来の不確実なリターンより、目の前の確実なリターンが好まれるからです。景気拡大期は「配当株は複利の効率が悪い」などの理由で否定的な意見が増えますが、景気停滞期は肯定的な意見が増えます。人気が高まるので人気の銘柄から割高になっていきます。

景気停滞期は高配当銘柄が高騰しやすいので、高配当株投資をしたい方は、世間が好景気で浮かれてハイリスク銘柄に関心が向いている時に仕込んでおくと、インカムゲイン(配当益)とキャピタルゲイン(売却益)の両方で大きなリターンを得られる可能性が高くなります。

経済が停滞期に入ると、政府は『利下げ』や『補助金・減税』などの景気刺激策や金融緩和を実施し、景気回復を図るようになります。これらの施策により企業が低リスクで借入や設備投資を積極的に行い、業績が上向きだして、給与が上がり、消費マインドが高まり始めると、経済は「景気拡大期」に向けて動き出します。

景気停滞期に上がりやすい業種

安定した需要がある食料品や医薬品などの生活必需品、電気ガスや通信などのインフラ株が人気になりやすい。
景気停滞時でも需要が一定の為、安心材料として買われやすくなります。
また高配当株なども人気になりやすい。

業界セクター
水産・農林業
食料品
医薬品
その他製品
情報・通信業
サービス業
電気・ガス業

まとめ

セクターローテーションは景気循環と金利変動の局面に合わせて資金の大きな流れを予測する手法ですが、実際の株価は各企業の業績や短期的な市場トレンドの影響も受けて変動するので盲信は禁物です。

配当株投資で重視すべきは、株価の差益を得ることではなく『長期で配当を安定的に得ること』です。

なので、目先の株価の変動より『配当の安定性』『増配の期待値』『財務体質』『業績の見通し』などを重視して選ぶことをおすすめします。ファンダメンタルズが優良な企業は長期的に増配していくことが多く、少々割高で購入しても長期で見れば取得額ベースでの配当利回りは改善されていきます。株価が下落して含み損を抱えてしまっても、業績に問題がなければ配当は貰い続けられますし、長期で保有していればセクターローテーションで市場の資金が一巡して戻ってきて再び上昇する可能性があります。

配当株投資は目先の価格変動に右往左往するのではなく、企業の本質的な価値を見極めて『長期で保有できる』と信頼できる企業の株を購入することが大事です。

配当株投資家にとってセクターローテーションは、差益を得る為ではなく『適切な買い場を知るため』や、株価の下落局面でも取り乱さず『大局的な視点で相場を見据えるための参考材料の1つ』と考えるのが良いと思います。

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